もつれた糸はほぐれるのか?日韓の混迷(3)

「過去は変えられないが、未来は変えられる。力を合わせ、被害者の苦痛を実質的に癒すとき日韓は真の親友となる。」(2019.3.1文在寅大統領)

まず確認しなければならないことは、「裁判で勝訴した原告が日韓関係を悪くしている元凶だ」という考えは絶対間違っているということだ。彼らは被害者なのである。2018年10月30日、韓国大法院が新日鉄住金に対して、元徴用工の韓国人4人(判決時3人死亡)に損害賠償をするように命じた判決は、おそらく多くの日本人にとって「寝耳に水」の報道だったろう。
「なぜ韓国内で裁判?」「原告は金が目当てか?」「“ごね得”だろう」などと考えた日本人もいるかもしれない。しかし、その考えは誤りである。この間、日本のマスコミが元徴用工訴訟のことを全く報道しなかったから、そのような誤った考え方が導かれるのである。

大法院の判決は、「新日鉄住金の上告を棄却し、一人当たり1億ウォン(約1千万円)を支払い用に命じた2013年のソウル高裁判決が確定した」ことを意味している。「2013年のソウル高裁判決?裁判は延々と続いていたのか」と日本人は初めて気付く。

元徴用工4人は、当初、日本の裁判所に訴訟を起こして敗訴した。そこで4人は2005年、韓国の裁判所で新日鉄を相手に再び訴訟を起こしたが、ここでも司法の壁は厚く、1審、2審でいずれも敗訴した。しかし、大法院は2012年、「日本の裁判所の判決は、日本の植民地時代の強制動員そのものを違法と考えている大韓民国憲法の核心的価値と真っ向から衝突するものだ」として、原審を破棄し、事件を差し戻した。そして2013年のソウル高裁判決による原告勝訴、これを不服とする新日鉄側の上告、朴槿惠政権の司法介入と判決の延期・・・と続く。
2007年、韓国政府(盧武鉉ノムヒョン大統領)は「国外強制動員犠牲者支援法」を制定し、国外に動員された軍人・軍属や徴用工の犠牲者に追加支援を行い始めた。これは「歴史清算事業」とよばれ、現在の文在寅政権はこれを引き継いでいる。
しかし、この事業はあくまで韓国政府の「道義的責任」を果たすためのもので、肝心の日本政府の法的責任は果たされていなかった。日本側が頑迷な態度で、この問題について拒否し続けて来た理由は次の如く明快である。

「強制徴用被害者の個人請求権問題は完全かつ最終的に解決済みとする1965年の日韓請求権協定に明確に違反するものとし、日本企業に不当な不利益を及ぼして、1965年の国交正常化以降に形成された両国の友好協力関係を根本から揺さぶるものである。」(河野外相2018.10)

「個人の請求権」は全く消滅したと日本側は解釈している。つまり、日韓請求権協定の中に慰安婦や徴用工補償も含まれていることになる。日本は戦争責任の問題や戦後補償の問題をこの条約できれいさっぱり解消したつもりだったのだ。
日本は請求権協定に基づき、無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力を行なったが、この金は戦争被害者個人に渡ったのだろうか?否である。1965年当時の韓国は朴正熙大統領の軍政下にあり、個人が声を上げることなど不可能であった。韓国は北朝鮮と対峙する反共の砦であり、すべて国家関係が優先され、人権は無視された。

しかし、1989年に冷戦が終わり、東西の緊張関係が緩和された。韓国では軍政が終わり民主化が進んだ。このような背景から、1991年に元従軍慰安婦が日本政府に補償請求訴訟を起こした。元徴用工、傷痍軍人、サハリン残留者、軍属、BC級戦犯者など多くの戦争被害者が日本の司法に訴えた。彼らは未だ救済されていなかった。日本はもとより、韓国政府からも見捨てられた存在だった。世界『日韓の“共通項”から道を開く』を論じた弁護士崔鳳泰氏によれば、彼の手がけた戦争被害者の訴訟の7割は韓国政府、韓国企業を訴えた裁判だったという。ノムヒョン政権の「国外強制動員犠牲者支援法」は、そのような戦争被害者に対する韓国政府の「道義的責任」を果たす試みであったと言えるだろう。

しかし韓国大法院の判決は日本政府が「決して触れて欲しくない」核心を突いていた。
判決は、元徴用工の過酷な強制労働や精神的苦痛を「不法的な植民地支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為」とし、原告の「慰謝料請求権」を認めたのである。すなわち、日本政府と企業の「法的責任」の存在を明確に追及したものだった。

日本政府が言うように「個人の請求権」は消滅したのだろうか?本当に「完全かつ最終的に解決」したのだろうか?20世紀末から21世紀にかけて、世界情勢と韓国国内情勢の大きな変動と共に、この問題は日韓両国が再検討しなければならない時期に来ている。戦争被害者は高齢に達し、時間はさほど残されていない。
崔鳳泰氏によれば、日韓基本条約・請求権協定には、あいまいな部分があり、そこに日韓の解釈が食い違う原因があるという。

○歴史認識の問題・・日本の植民地支配が適法なのか違法なのか?日韓併合条約(1910)は「もはや無効」というあいまいな言葉が使用されている。「合法的に併合」されたのであれば、朝鮮人強制動員は1938年の国家総動員法による適法な行為になってしまう。
○「完全かつ最終的に解決」とは、個人の賠償請求権に基づき国家が外国と交渉する「外交保護権」の放棄を指すのか、あるいは個人の請求権の消滅までも含むのか?
○慰安婦、被爆者、サハリン残留者などの非人道的行為は請求権協定の対象に含まれている(日本)のか、含まれていない(韓国)のか。

日本の裁判所の見解は、個人的の損害賠償請求権について、裁判上請求する権利を失っているとしている(2007年最高裁判所)が、請求権自体は消滅していないという観点を持っている。1991年、柳井外務省条約局長(当時)はシベリア不法抑留と強制労働をさせられた日本軍兵士の損害賠償問題について次のように述べている。
「日ソ共同宣言の請求権放棄は、外交保護権の相互放棄という意味であります。日本国民個人がソ連とソ連国民を相手にする請求権を放棄したわけではありません。」

崔氏はこのことに注目し、日韓司法府の判断には、“個人の請求権は実体的に存在する”という共通項があるのだから、この点にしぼって両政府が協議すればよいとしている。まず「共通項」から道を開くというわけだ。
行く手には多くの困難な壁が存在する。安倍首相はかつて従軍慰安婦について「韓国はキーセンの国なんだから強制なんてあるわけがない」と述べている。その後、彼の歴史認識が「進化」したかどうかは知らないが、元々、歴史修正主義的な見解を持っている人物だ。従って、徹底した被害者中心主義を軸とした歴史清算事業を進める文大統領との距離は果てしなく遠い。アメリカの言うことも聞けない安倍氏には首相の座から降りてもらう以外に方法はないだろう。
(終わり)

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