米朝首脳会談とボルトン回顧録

ボルトン前大統領補佐官が、彼の在任中のことを書いた回顧録を出版したことが、マスコミでさかんに報じられている。この回顧録に対して、トランプ大統領は「うそと作り話で構成されている」と主張し、ワシントンの連邦地裁に出版差し止め請求を求めたが6月20日に棄却され、この度「無事に」出版されたものである。伝え聞く内容は次のようなものがあるという。
〇2018年6月にシンガポールで行われた史上初の米朝首脳会談については、トランプ大統領が「これは宣伝のためだ」とか、「中身のない合意でも署名する」と述べたなどとして、非核化の実現よりみずからのアピールに関心があったと指摘している。
〇この会談は、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領の「戦略よりも南北の統一という目標のための創作だった」として、韓国側の思惑が強く影響していたと主張している。
〇ボルトン氏はトランプ大統領が北朝鮮に安易に譲歩しないよう働きかけたが、トランプ大統領はキム委員長との再会談に強い意欲を見せ、「ホワイトハウスに招くべきだ」と主張したため、政権幹部がそろって反対した。

2018年6月、世界が米朝会談に注目していた時、ボルトン前大統領補佐官は軍事力を基盤としたタカ派的強圧外交路線で、米朝会談を妨害する人物として知られていた。そのような評価が、この回顧録で一定程度裏付けられるのではないだろうか。

米朝会談が行われる直前、ハンギョレ新聞(日本語電子版)は、「米朝会談の阻止狙ったボルトン補佐官の『リビアモデル』言及にトランプ大統領激怒」という興味深い記事を載せている。この情報源はCNNなのだが、「ボルトンは北朝鮮との対話を妨害するため刺激的発言をした」と述べている(2018.6.7)。
2018年5月16~24日の間、米朝会談は中止の危機にさらされていた。5月16日、北朝鮮の金桂冠第一次官がボルトン国家安保補佐官を激しく非難し、続いて崔善姫次官がペンス副大統領を「政治的に愚鈍で間抜け」と罵詈雑言を浴びせ(5.24)、トランプ大統領の会談拒否宣言(5.24)に至った。しかし、すぐに金桂冠がトランプを「持ち上げ」(5.25)ると、トランプは「北朝鮮から温かくて生産的な談話を受け、非常に良いニュース」(ツイッター)として仕切り直しとなった。

北朝鮮を激怒させたボルトン発言とはどんなものだったのだろうか?
ボルトン氏は2018年4月29日の「フォックスニュース」とのインタビューで、「我々は2003~2004年のリビアモデルを念頭に置いている」と述べ、北朝鮮が先に核兵器などで核関連施設と物質を完全に放棄することが「非核化の意味だ」と強調し、北朝鮮が一日も早く米国オークリッジ基地に核弾道と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を搬出することだけが解決策だと明らかにした。ペンス副大統領はボルトン補佐官の発言を受け継ぎ、「北朝鮮が米国と合意しなければ、反乱で死亡したリビア指導者ムアンマル・カダフィ政権が打倒されたリビアモデルになるだろう」と警告した。
「カダフィみたいになりたいか?」というような脅迫まがいの発言であり、米朝の外交交渉が進行するなかでのこのような発言は非常識で、不可解なものだった。

北朝鮮がボルトン発言に強く反発したのはなぜなのだろうか?それはボルトンが過去の米朝交渉において、「札付きの」妨害者としとて立ち振る舞ったからである。
2003年、ボルトンはブッシュ大統領の国務省軍縮・国際安保担当次官だったが、ソウルで金正日総書記を「暴君的な独裁者」と非難し、北朝鮮住民がその治下で苦しんでいるという内容の講演を行なった。
これに対し、北朝鮮はボルトンを「人間のごみ、血に飢えた吸血鬼」と非難し、「北東アジアの平和と安定を決定した協議の重要性と人間の尊厳を考慮すると、参加する資格がない」として、間もなく始まる6カ国協議で彼を排除すると宣言した。
ブッシュは結局、6カ国協議の米国代表に内定していたボルトンを排除する措置を下した。これを機に、ボルトン補佐官はブッシュ政権の外交・安保分野で影響力低下を余儀なくされた。(6カ国交渉は2005年に「9.19合意」に至った。)
このような歴史があるからこそ、ボルトン氏は北朝鮮にとってみれば「人間のごみ、血に飢えた吸血鬼」と、罵詈雑言を浴びせたくなる人物だったわけである。

CNNは、ボルトンの発言が意図的なものであったことを報道し、ある国務省高官は、ボルトンが「進行中の会談の準備を大きなハンマーで叩いて会談の進行を飛ばしてしまうことを望んでいた」と話した。
トランプ大統領はボルトン発言に激怒し、ポンペオ国務長官と話し合い、ボルトン補佐官を米朝首脳会談の準備だけでなく、北朝鮮と関連する問題全般から「切った」という。実際、ボルトン補佐官はその後、米朝首脳会談に関連した発言をせず、金英哲労働党副委員長がトランプ大統領と面会した時も陪席しなかった。

回顧録の内容から考えると、どうやらボルトン氏は、トランプ大統領の「北朝鮮非核化の実現」という大義名分を疑っており、「大統領自身の宣伝のため」のパフォーマンスにすぎないと考えていたようだ。当時、ボルトン氏だけでなく、アメリカ国内において、「米朝首脳会談が米国に肯定的な結果をもたらさない」として、トランプ外交に反対する勢力の存在があった。彼らは米ソ冷戦以来根強く存在した反共主義的タカ派外交路線を踏襲する人々であり、「朝鮮半島の統一と平和」よりも、「北朝鮮との緊張状態の維持」により経済的利益を得ようとする米国軍事産業を反映していると考えられる。
現在、トランプ大統領はおのれの権力を維持することにやっきとなり、北朝鮮の非核化について興味を失ってしまったように見える。ボルトン氏の暴露本は、トランプの言うような「うそと作り話で構成されている」ようなものではなく、アメリカのアジア戦略を考える上で良い資料になるだろう。我々日本人が今注意すべきことは、世界平和を、おのれの人気取りに利用するトランプも、圧倒的な軍事力で世界を威嚇する外交を強いるボルトンも、いずれもろくでもない人物であるということだ。


※この文は2018年06月08日に書いた拙日記「米朝会談を妨害する者」を改訂したものである。

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