二人の「官邸の番人」を考える

2020年6月18日、前法相の河井克行衆院議員と妻の杏里参院議員が公選法違反(買収)の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。河井克行議員は「前法相」としてマスコミに紹介されることが多いが、「あれ?何で辞めたんだっけ?」と既に記憶が曖昧になっている国民も多いと思われる(私だ)。そこで、これまでの経緯をまとめておこうと思う。そうすると「黒川検事長定年延長問題と今回の事件が深く関わっていることがわかる。

河井案里氏初当選
2019年7月の参議院選挙で河井案里氏が初当選した。この選挙戦で自民党は河井陣営に1億5千万円という巨額の選挙資金を投入していたことが後で明らかになった。安倍首相は山口県事務所から秘書4人を投入し、自ら直接応援に出向くといった力の入れようだった。
《首相、河井克行氏を法務大臣に抜擢》
2019年9月11日、第4次安倍内閣が成立。それまで首相補佐官として外交部門で安倍首相の「圧力外交」の任務を受けて活動していた河井克行氏は法務大臣に任命された。この時、河井氏は「法務・検察の上に立った。もう何があっても大丈夫だ」と言い放ったという。「もう、何があっても」とは、森友、加計問題や「桜を見る会」政治資金疑惑など、安倍首相をめぐる数々の事件を指すのであり、自ら「官邸の番人」として安倍首相を「しっかりお守りする」役割を果たそうとしたのだろう。
「文春砲」炸裂
しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いだった河井夫妻に誤算が生じた(安倍首相の誤算でもある)。2019年10月31日発売の「週刊文春」に「法務大臣夫婦のウグイス嬢『違法事件』」という暴露記事が載ったのである。文春は既に菅原一秀経済産業大臣の「香典、メロン、カニ」贈答問題を報じ、公選法違反に問われた菅原氏は経産大臣を辞任していた。
河井克行氏も直ちに法務大臣を辞職し(10月31日)、森雅子氏が代わりに任命された。僅か2か月足らずで、大臣が2人辞職する異例事態だった。以後、河井夫妻は雲隠れし、国会にも姿を見せなかった。
カジノ疑惑発生
2019年12月25日、安倍政権が成長戦略の“起爆剤”と期待するIR(カジノを含む統合型リゾート)事業の担当副大臣だった秋元司衆院議員、収賄容疑で逮捕された。中国カジノ企業は東京地検の調べに、他の衆院議員5人にも「100万円前後の現金を配った」と供述し、事件は広がりを見せた。IR事業は菅官房長官が権限を握っていると言われており、官邸は東京地検の捜査がどこまで及ぶのか恐怖した。一方、河井夫妻秘書の公職選挙法違反容疑に対する広島地検の捜査は着々と進み、事件は広範な収賄事件に発展しつつあった。
新たな「官邸の番人(ポチ)」登場
2020年になっても野党の「桜を見る会」疑惑追及は止まなかった。官邸を守るはずの「番人」河井克行は既に地検に追われる身。そこで、安倍首相はすばらしい解決策を見つけた。黒川弘務東京高検検事長を検事総長の座に就け、司法に睨みを利かせて、地検の捜査を中断させること、これである。黒川検事長は2019年1月に東京高検検事長に就任しているが、それまで法務省官房長、事務次官を歴任し、甘利明元経済再生相の「あっせん利得処罰法違反」の疑いや、下村博文元文化相の加計学園からの収入を収支報告書に記載しなかった疑惑、佐川元国税庁長官ら財務省関係者38人の虚偽公文書作成の疑いなど数々の疑惑の「もみ消し」に力を注いだ人物とされる。まさに「官邸の番人」としての「実績」は十分ではないか。しかし、黒川氏は2020年2月に定年退職を迎える。稲田検事総長の定年は8月だ。
2020年1月31日、安倍首相は法解釈を勝手に変更し、黒川検事長の定年後の「勤務延長」を認める閣議決定が行われた。これは民主主義の基礎である三権分立を脅かす暴挙だった。
河井夫妻の秘書逮捕、有罪へ
2020年3月3日、前年7月の参院選を巡り、車上運動員に違法報酬を支払ったとして、広島地検は公選法違反(買収)の疑いで、公設秘書ら3人を逮捕した。地検は同日3日、河井夫妻の東京・永田町の議員会館にある事務所を家宅捜索した。克行氏は事実上、案里氏の陣営を指揮していたとされ、地検の捜査は遂に自民党本部に及んで来た。
赤木俊夫さんの遺書公開
「週刊文春」(3月26日号)は「妻は佐川元理財局長と国を提訴へ 森友自殺<財務省>職員遺書全文公開 『すべて佐川局長の指示です』」で、自殺した財務省職員の赤木俊夫さんの遺書を掲載し、雑誌は完売した。佐川元国税庁長官ら財務省関係者38人は虚偽公文書作成の疑いがあるにもかかわらず、東京地検は彼らを不起訴にした。国会で虚偽の答弁をし、部下に文書の改ざんを命じた佐川氏は、この遺書を読んだのだろうか?佐川氏を不起訴にした検事たちは何を思ったのだろうか?赤木さんの遺書は国民に対して権力者と検察との関係を再認識させることになったと思われる。
強行採決失敗
衆院内閣委員会は5月8日、検察官の定年を63歳から段階的に65歳に引き上げる検察庁法改正案の審議を強行した。改正案の中で「内閣判断で『役職定年』を最長3年間延長できる」と付け加えた。これは内閣が司法の人事に介入し、黒川氏の定年延長を「後付け」して、検事総長就任を正当化するという狙いがミエミエである。安倍内閣はこの法案を最初から強行採決するつもりだった。
国民はこの狙いを「官邸の番人」作りのための法案であると正確に見抜いていた。SNSで8日夜から「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿が爆発的に広がり、僅か3日間で470万を超えた。芸能人を含む有名人も次々と声をあげた。元検事総長ら検察OBは反対意見書を提出し、「フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる『朕は国家である』との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢」と激しく批判した。5月18日、政府・与党は、検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案の今国会での成立を断念した。
黒川氏自爆す
2020年5月20日掲載の週刊文春電子版は、安倍内閣の「番人」黒川弘務東京高検検事長が、新聞記者らと賭けマージャンをしていたと報じた。法の番人であるべき検事長が違法行為をしていた事実に国民は、これがわざわざ定年を延長するほど、「余人をもって代えがたい人材」なのか?とあきれ果てた。黒川氏の命運はこれにより尽き、遂に検事長を辞任した。彼を重用して人事介入した安倍晋三の威光は地に落ちたというべきである。

ここまで見てみると、本来、法の番人であるべき法務大臣と検事長という地位にあった二人の人物は、いずれも「安倍政権の番人」たる役割を担い、自ら法を破り自滅している。IR事業で逮捕された秋元司議員も含め、安倍内閣は彼らを「使い勝手の良い道具」としてしか見ていない。彼らの不祥事を「重く受け止める」「責任を痛感」と口先では言いながら、実際に責任を取ったことなど一度も無い。権力者は常に冷酷であり、忠実な部下も不要になれば責任を押し付けられて切り捨てられる。「トカゲの尻尾切り」である。
マスコミは今後も、黒川弘務氏や河井克行氏の人格攻撃を行うだろう。「こんな悪い奴なんだ」と。しかし、それは誤りである。彼らのような人格を生み出した安倍政治の構造そのものに目をやるべきだろう。そしてその政治構造も崩壊を見せている。

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