横田滋さんの死を考える

2020年6月6日、北朝鮮による拉致被害者家族連合会(家族会)の前代表横田滋さんが亡くなった。享年87歳。我々から見れば横田滋さんは、家族会の代表と言うよりは「めぐみさんのお父さん」として知られていたと思う。1977年11月に娘めぐみさんが金正日の工作員に拉致されて以来43年間、横田さんは、めぐみさんと拉致された人々の帰国を実現させようと妻の早紀江さんと共に奔走してきた。そして無念の死。
マスコミは横田さんの死を大きく取り上げたが、概ね「父と娘の再会かなわず」というような情緒的な扱いに終始した。安倍首相も「滋さんが早紀江さんとともに、その手でめぐみさんを抱きしめることができる日が来るようにという思いで今日まで全力を尽くしてきたが、総理大臣としていまだに実現できていないことは断腸の思い」とコメントした。
しかし、安倍首相のコメントにも、NHKを初めとしたメディアの扱いにも次の問題が欠けていたか、あるいは避けられていた。

「2002年の小泉首相・金正日総書記による日朝首脳会談及び拉致被害者5人の帰国以来、18年間なぜ拉致問題が一歩も前進しなかったのか?」

2020年6月7日、東京新聞は「原点に戻り対話解決を」という社説を掲げた。その中で、安倍晋三首相が、北朝鮮に圧力一辺倒の柔軟性を欠く対応を取ってきたことを指摘している。
・・・・2017年の国連演説で安倍首相は、対話は北朝鮮の時間稼ぎに使われたとし、「必要なのは対話ではなく圧力だ」と強調した。2002年、金正日総書記は正式に拉致を認め、謝罪し、首脳会談で結ばれた日朝平壌宣言で、両国は国交正常化の実現を目指すこととなった。ところが、日本政府は「拉致問題解決なくして国交正常化なし」と、拉致解決を国交正常化交渉の入り口に位置づけ、経済制裁を強化した。日本政府は金総書記に謝罪をさせた「成功体験」にこだわりすぎた。2018年には史上初の米朝首脳会談が実現した。安倍首相はこれを見て、金正恩委員長と「前提条件なしで向き合う」と姿勢を変えたものの、北朝鮮は米国や韓国、中国との関係改善を進めるだけで、日本との交渉には応じなくなってしまった。滋さんは生前、「解決のための制裁は緩和すべきだ。お互い嫌がらせをやったらきりがない」と対話路線を主張していた。安倍首相はこの言葉を心に刻むべきだ。・・・・

この社説でも少し触れられていたが、硬直化した「安倍外交」の典型が2018年に見られた。
2018年、文在寅大統領とトランプ大統領が南北首脳会談、米朝首脳会談に向けて動き始めた。日本にとってもこれは拉致問題解決の絶好機だった。ところが安倍首相は文大統領に「米韓合同演習を予定通り進めることが重要だ」と述べ、文大統領に「内政干渉だ」とつっぱねられた。南北首脳会談に向けて動く韓国に対して、安倍首相はひたすら圧力一辺倒の強硬路線を主張した。トランプとの電話会談後には「北朝鮮に最大限の圧力をかけつづけていく点で完全に一致した」と胸を張った。前年の2017年、安倍首相は北のミサイル実験を利用して北の脅威を煽り、制裁強化を諸外国に説いて回り、同年10月には衆院選挙を「国難突破選挙」という意味づけを行い勝利した。この時点で、拉致問題は安倍晋三にとって完全に自分の支持率を高める道具になっていたと言える。
ところが、米朝首脳会談の開催が決まると、安倍首相は手のひらを返し、トランプに、拉致問題も議題にしてもらうことを、懇願した。彼の唯一の頼みの綱はトランプだった。しかし、トランプがさほど誠実な男ではないことは、会議の結果から明らかだった。米朝首脳会談後、安倍首相は「拉致問題」という前提を完全に外し、「前提条件なしで向き合う」という路線に転換した。しかし、好機を捉えるタイミングを完全に逸した安倍首相に対して、「トランプが変わると自分も豹変する口先だけの主体性の無い政治家、トランプのポチ」としての評価が内外で強まり、北朝鮮の核問題を解決するための6カ国協議から完全に「蚊帳の外」に置かれてしまったのである。

家族会の元事務局長蓮池透氏は語る。
「(安倍首相)は実際には何もしていないじゃないですか。いつも口先だけなのです。選挙になると拉致を持ち出して、人気取りに利用する。北朝鮮ヘイトをあおって選挙に利用したこともありました。しかし、解決に向けては何もしないどころか『対話のための対話はしない』と制裁強化で北との関係を悪化させ、解決の糸口さえ失ってしまった。本気で拉致被害者の帰国に取り組む気があれば、北の脅威をあおるような政治利用はしないでしょう。横田滋さんの訃報に安倍首相の口先の弔意を重ねて、『お涙頂戴』の美談仕立てにする大マスコミも罪深いと思う。拉致を政治利用するだけで何の進展も得られない首相の責任を今こそ追及すべきです。」(日刊ゲンダイ)

我々は今、新型コロナ禍の中で、恐らく横田滋さんが感じたのと同じような状況にある。後手後手に回る防疫対策、一向に広まらない検査体制、何の根拠もなしに突然、全国の学校を休校にさせ、社会を大混乱に陥らせた無謀な政治パフォーマンス、同じく政治パフォーマンスとして登場し、2か月経っても未だに到着しない「アベノマスク」、人々がコロナと生活苦に脅やかされていた時、ソファーで優雅にお茶を飲みながら黒犬と遊ぶ首相の動画を載せる無神経ぶり、給付金手続きを電通やパソナに丸投げし、彼ら「御用商人」にちゃっかり儲けさせていた闇政治など、安倍内閣への不信感は高まるばかりである。

横田滋さんの死から学ぶものは何か?それは安倍首相が政権にとどまる限り拉致問題の解決は無く、新型コロナ禍の中で苦境にあえいでいる人々に希望を与えることはできないということだ。

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