「緊急事態宣言」と自由からの逃走

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2020年4月7日、安倍晋三首相は改正特別措置法(新型コロナ特措法)にも基づく緊急事態宣言を初めて発令した。人と人の接触を止めるということが現時点での新型コロナ流行阻止の唯一最大の方法であるとするならば、私はこの対策を否定するものではない。国民の8,9割がこの宣言を歓迎しているという。
しかし、これまで国民に対して多くの嘘をつき、言い逃れや責任逃れをし続け、議会制民主主義を破壊してきた安倍首相の発言を聴いた時、私は心中、苦痛と不信感が増大してくるのを強く感じ、最後まで聴くことはできなかった。

自民党の「日本国憲法改正草案」をうけて、今、安倍首相は彼の任期中に憲法改正の手続きを推進しようとしている。その中の第9章に「緊急事態」(緊急事態の宣言)がある。この条項は2011年の東日本大震災の翌年、草案に追加された。

第98条:内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な地震災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
第99条:緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

「緊急事態」の際に、政令に法律と同等の効力を持たせ、内閣に権力を集中させるこの条項は、ナチスの全権委任法(1933)と似たものである。ドイツ史では、この全権委任法の成立をもってワイマール憲法の終焉とナチス独裁権の確立を決定付けたとしている。ナチスは一見「合法的手続き」を装い、あらゆる批判勢力を弾圧し、国民の人権を奪い取ったのである(「ナチスの手口」by麻生太郎)。この条項は権力によって濫用される危険性がきわめて高い。

しかし、自民党の「緊急事態」条項は被災地現場を中心として、多くの批判を浴びた。「緊急事態に備える法律はすでに整備されている」、「政府に権限を集中させるのでなく、災害現場の自治体に権限を与えるべきだ」など、改憲による緊急事態条項の必要性を認めなかった。日本の民主主義社会は正しい反応をした。自民党は「この条項を通すのは厳しいか?」と思ったはずだ。

しかし、この度の新型コロナウィルス肺炎の流行により、改憲勢力にとって絶好の機会がやってきた。「外部からの武力攻撃」や「内乱」でなく、「大規模な疫病災害」に議論を集中させることにより憲法改正へと世論を導こうとしている。これまで、多くの報道がなされて来たように、新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言は、土地建物の利用と医薬品・食料品の売り渡しを除いては、すべて「自粛要請」であり罰則はない。それに対して国民は「宣言は遅すぎた」と批判しながらもこれを受け入れ、更に「自粛要請では不十分」「違反者には罰則を」という意見も多くみられる。つまり、国民は中国や欧米諸国に見られる「より強硬な措置」「強いリーダーシップ」を求めるようになったのである。2月の終わりに安倍首相が突然「全国休校要請」を出し、「場当たり的だ」「混乱させるだけだ」「論理的根拠はあるのか?」と批判した国民が、1か月後には強硬措置を求めている。この変化をどう理解すべきなのだろうか?

それは、新型コロナウィルス感染者が3月下旬から急増し、全国各地で集団感染が起こり、伝染経路不明の感染が、マスコミで過剰ともいうべき量で報道され始めたからである。「コロナに対する恐怖」が国民の間にしっかりと植えつけられ、イタリアやスペインの混迷ぶりをまざまざと見せ付けられた。「武漢やニューヨークのようになりたいか?」国民の声は「緊急事態宣言を出せ」との大合唱になった。
強い危機感による思考放棄と、強いリーダーシップと権威への服従。フロムは『自由からの逃走』の中で、近代人は自由の重荷からのがれ新しい依存と従属を求め、それがヒトラーのパーソナリティとナチスの権威主義的な構造を受け容れることになったとしている。現代の日本人も「自由から逃走」しようとしているのか?

緊急事態宣言が出されてしまった現在、自由と民主主義を守る道は政府のコロナ対策に対する冷静で論理的な批判である。「一斉臨時休校要請」の際、安倍首相は学童保育の存在を知っていたか?多くの看護師が働きながら子供たちを育てていることに配慮したか?「こども食堂」の食事が唯一の栄養源となっている子供たちの存在は?収入がなくなったフリーランスの人々への補償を考えていたか?これらの問題をめぐる国民からの批判が、政府の対策の是正につながっている。「お肉券」「お魚券」は批判の声により粉砕された。4月1日の「全世帯マスク2枚配布」は国民からの猛烈な批判を浴びた。「それはお金の正しい使い道ではない」と。主権者である国民がしっかりとした批判的視点を持ちながら、科学的根拠に基づき新型コロナウィルス対策を一致協力して進めて行くことが重要である。そうすれば「非常事態宣言」を改憲の「緊急事態」につなげるような意見を国民は「まやかし」と見抜くことができるだろう。

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