愛国主義は国民の判断を誤らせる・日韓対立

ナショナリズム(民族主義、愛国主義)は時として建国・国家統合のエネルギーとなり、時として反帝国主義的独立運動に発展する。また、他民族を蔑視し自国民族の優越を主張する超国家主義(ウルトラ・ナショナリズム)ともなる。

2019年9月6日、ソウル市議会と釜山市議会は、戦時中に朝鮮半島出身者を働かせて軍事物資を生産した日本企業を「戦犯企業」と定め、市などがその企業の製品を購入しないよう努力義務を課す条例案を可決した。両市の条例では、元徴用工訴訟の被告企業である三菱重工業とグループ企業の三菱電機のほか、ニコン、パナソニックなど284社を「公式謝罪や賠償をしていない」として戦犯企業に指定。釜山の条例は、既に使われている製品に「戦犯企業の製品」とのステッカーを貼ることができるとの規定も盛り込んだ(9月7日・東京新聞)。
ここに至るまでの過程をもう一度概観しておこう。

2018年10月、元徴用工個人が戦争責任を負うべき日本企業を訴えた民事訴訟で、個人が勝訴し、企業に賠償命令が下った。ところが、日本政府が裁判に介入し, 水面下で、「判決に服するな」という指示を出した。安倍政権は「この問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みだから、韓国は国際法違反だ」とした。この見解により個人の民事訴訟は政治外交上の問題に発展し,2019年7月、日本政府が「報復的な」対韓輸出規制を発表したことにより、それまで比較的冷静に振舞っていた韓国国民の愛国主義に火をつけてしまった。この愛国主義は燎原の火のように拡大し、遂に前述のソウル市議会や釜山市議会の条例となるのである。

「愛国主義が盛り上がることで、韓国民主主義は誤った方向に進んでしまったのではないか?」と私は思う。そう考えるのは、この条例制定よりも半年前に似たような条例案が提起され、結局、条例案は見送りになったという経緯があったからである。

2019年3月、ソウルに近い京畿道(キョンギド)の議会で、共に民主党の黄大虎(ファン・テホ)議員ら道議員27人は「日本戦犯企業製品表示に関する条例案」を発議した。これは、道内の学校が保有・使用中の戦犯企業製品に対する実態調査結果を毎年京畿道ホームページに公開し、戦犯企業が製造した20万ウォン(約1万9000円)以上の製品に、「本製品は日本の戦犯企業が製造した製品です」というステッカーを貼るというものである。

共に民主党議員が圧倒的多数を占める道議会はこの条例案を可決できる可能性が強かった。ところがそうはならなかった。
京畿道教育庁は「戦犯企業に対する明確な定義(具体的な企業名)がないため各学校の混乱を招きかねず、戦犯企業に対する調査などの管理主体は中央政府などで行なうべき」として、受け入れはできない旨を主張した。
康京和外交部長官も「慎重に検討する必要がある」とし、事実上反対の意思を明らかにした。
正しい未来党は「子供たちの教育も、韓日関係もだめにする浅はかな発想」と批判した。
結局、黄議員らは孤立し、条例案の上程は取り下げた。

ソウル議会や釜山議会によって「戦犯企業」に指定された284社とは何だろう。それは李明博政権時代に作成された「被告企業」(日本の週刊誌の見出しによる)299社の数に近い。2012年12月、「対日抗戦期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会」(支援委員会)が、強制動員に関与があった日本企業のうち、ウェブサイト検索などを通じて現存する事を確認した企業名簿である。これはあくまでも「対日清算の基礎資料」であって、現在の企業が法的に継承されているかどうかは検証されていない。このリストをもとにして提訴がなされたことはなく、日本の週刊誌による「被告企業リスト」という呼び名は誤りである。
(「原告勝訴後の課題と葛藤」(堀山明子・世界2019.5)

3月の京畿道議会の条例案から9月のソウル議会、釜山議会の条例制定までの6か月の間に情勢は大きく変わった。
2019年3月、三菱重工の資産差し押さえを認める決定。
同年3月、不二越に資産差し押さえを認める決定。
同年3月、原告代理人、差し押さえた新日鉄住金の資産について、現金化するための売却命令の申請は先送り。
同年年4月、福島原発事故に関連した日本産水産物の輸入禁止についての世界貿易機関(WTO)の審議で日本が敗訴。
同年7月、日本政府、半導体などの対韓輸出規制強化を発表。同年7月、韓国国内で日本商品ボイコット運動広まる。
同年7月、河野太郎外相、駐日韓国大使に対して「極めて無礼だ」と発言。
同年7月、交渉要請に応じなかった三菱重工に対し、原告側が三菱の韓国国内資産の現金化手続きを進めることを決定。
同年8月、韓国を輸出先として信頼する「ホワイト国」から外す

このような状況の変化の中で、最初は「戦犯企業に対する明確な定義がない」と批判的だった韓国地方議会が、その検証も不十分なままに、堂々と「戦犯企業リスト」を掲げて不買運動を呼びかけている。ナショナリズムの高まりが、人々の判断を誤らせている。不明確な情報が拡大し、一定の方向性を与えられて大きな過ちを犯すことは、関東大震災時の朝鮮人虐殺で明らかだ。
「韓国内では世論を意識した政治主導の不買運動に批判の声も強い」(東京新聞)というが、それら批判の声も、ナショナリズムの同調圧力が高まって行けばどうなるか分からない。時代思潮はダイナミックに変化するものだ。

2012年、尖閣諸島(中国名釣魚島)領有問題に関する日中両国の対立が激化し、中国主要都市では反日デモが起こった。デモ隊は口々に「魚釣島は中国の領土」等のスローガンを叫び、日本レストランや日系企業を攻撃して、建物を破壊し、商品を略奪した。このように民族主義は危険な方向に向かう可能性もあることを、もう一度思い出さなければならない。

一つだけ確実に言えることがある。民族の対立は国民同士が憎みあって生まれるわけではないということだ。それは必ず政治勢力の介入があって起こる。政治が国民に「憎め」と命令する。マスコミの追随的報道がそれを合理化する。
だから政治的判断によって対立は解消するとも言える。日韓の泥沼的対立を解決するには、安倍政権が対韓貿易規制をやめる必要がある。この貿易規制は国民が望んで行なっているものではない。

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