もつれた糸はほぐれるのか?日韓の混迷(2)

「両親のけんかを見ている子どものような悲しい気持ちだ。」(在日韓国人・「こちら特報部」東京新聞2019.7.31より)

今年の1月9日、安倍政権が日韓請求権協定3条に基づく二国間協議を申し入れた時、文政権はなぜ「静観・先送り」の態度を取り続けたのか?この問題を考える前に、日韓請求権協定3条とはどんなものなのか知っておく必要がある。

日韓請求権協定第三条
1、この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。
2、1の規定により解決することができなかった紛争は、いずれか一方の締約国の政府が、他方の締約国の政府から紛争の仲裁を要請する公文を受領した日から三十日の期間内に・・・(略)・・・三人の仲裁委員からなる仲裁委員会に決定のため付託するものとする。ただし第三の仲裁委員は、両締約国のうちいずれかの国民であってはならない。
(3,4、略)

日韓基本条約成立以来、初めて日本側から仲裁委員会の設置を申し入れて来たのである。これは韓国にとってもチャンスであったはずだ。なぜなら、これと逆の立場から韓国側が3条に基づく協議を申し入れ、日本が拒否したことがあったからだ。
2011年、李明博政権の時、2回にわたり慰安婦、韓国人原爆被害者、サハリン在留韓国人の問題を議題として提起したが、民主党野田政権は応じなかった。李明博政権が協議を申し入れた背景には、韓国の憲法裁判所が、慰安婦問題に関し、韓国政府が日本政府と協議を行なっていない不作為に対し、これを違憲としたからである。

韓国の司法府は違憲審査をする憲法裁判所と、地裁、高裁に対する上級審としての大法院(最高裁判所)が車の両輪のように動いており、司法府の判断は重い。2017年に憲法裁判所が朴槿惠大統領の罷免を宣言したのは記憶に新しい。三権分立に関しては、日本の最高裁判所が権力側の意向に沿った判決が多く、違憲判断も避けがちなのに対して、韓国のほうがより明確なようだ。

さて、文政権の「静観・先送り」の理由を、毎日新聞ソウル支局長堀山明子氏は『韓国徴用工判決 原告勝訴後の課題と葛藤』(世界2019.5月)で次のように書いている。

(文政権の四原則)
①司法府の判断尊重。「司法判断に政府は介入できない。」
②民間専門家とともに政府対応を準備する必要。
③被害者中心主義・・被害者の傷が最大限治癒されること。
④日韓両国関係を未来志向的に発展させる。

②に関しては2019年11月13日に専門家10人が意見した。
「協定を維持しながら新たな財団による被害者支援策が妥当である。」
④に関しては、2019年11月9日の声明で「大法院判決は日韓基本条約を否定したものでなく、条約の土台の上で適用範囲がどこまでかを判断したものである」として、日韓協定の枠組みから対応を模索しようとした。

四原則に基づく交渉は困難な道だ。「文政権は日韓協定を否定した」などと日本側からの批判があるが、それは誤りである。日韓請求権協定を維持しながら、それに対する法解釈についての議論を求めているわけだ。
文政権は追加訴訟が拡大する前に政府見解を示そうとしていた。

ところが、2019年12月下旬、自衛隊哨戒機に対するレーダー照射問題が起こり、日韓関係は極めて悪化した。これにより、徴用工問題の検討作業は失速した。「財団設立」などは、韓国政府が慰安婦問題の日韓合意に基づき設立した財団を解散すると発表したばかりである。慰安婦問題もリンクさせれば、とても議論が冷静にはできないだろう。おまけに、朴槿惠大統領時代、大法院が政治幹部や外務省と癒着して、徴用工判決を遅らせた職権濫用事件は捜査中だ。米朝関係改善、朝鮮戦争終結宣言などの大きな問題を優先させなければならない。ここは「静観」だ。

そこで、1月9日に、安倍内閣が日韓請求権協定第3条に基づく協定を申し入れた時、文在寅大統領は「日韓が真摯に知恵を出し合うべきだ」と述べただけで、申し入れに応じなかった。
文政権は「司法府の独立と不介入」「日韓請求権協定は守る」「徹底した被害者中心主義」という原則に縛られて一種のジレンマに陥り、おまけに、より重要な外交案件が課題としてのしかかって来た。このため元徴用工判決に対する政府の対応は大きく遅れた。

この対応の遅れは、安倍政権側の苛立ちと不信感を招くと同時に、三菱重工、不二越、日立造船に対する下級審での仮執行を認める賠償命令判決が次々と下され、その他の10件以上の裁判でも原告勝訴の流れが出来てしまった。そして7月の安倍政権の「暴走」を招くことになる。

次に、韓国、日本をめぐる「道義的責任」と「法的責任」について考える。ここに日韓の基本条約・請求権協定をめぐる根本的食い違いが存在し、更には日韓併合(1910)に対する歴史認識の違いが浮かび上がって来る。
(続く)

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