世界の破滅が近づく・米INF条約破棄通告

トランプ大統領の評価について、以前、私は「トランプの愚行・“エルサレム首都”表明」(2017.12)でジョン・W・ダワー『アメリカ・暴力の世紀』(岩波書店)の序文を引用したが、再度引用したい。

「彼は、世界で最も強力な国家を指導するにふさわしい知性も気質も備えていないように思える。彼は読書をしない。物事の詳細を知ろうとする忍耐力を全く持っていないし、物事の正確さや真実を尊重することもない。彼の注意力は薄弱で、英語の表現はとりわけ粗野である。・・・・歴史を理解する能力に欠けるし、歴史に対する興味もない。・・・アメリカ合衆国がこれまで防衛してきたと主張する価値観には全く関心がない。そうした価値観とは、民主主義、規則に則った世界秩序、国際条約の重要性、人権ならびに市民権の擁護、最適な多国間協力という理想などである。」

2019年2月2日、トランプ大統領が破棄の方針を示していた中距離核戦力(INF=Intermediate-range Nuclear Forces)廃棄条約を巡り、ポンペオ米国務長官は1日、ロシアへの廃棄通告を発表した。条約は正式な通告から6ヶ月後に失効する。ロシアのプーチン大統領はこの対抗措置として、ロシアも同様に条約の義務履行を停止すると表明した。(東京新聞2019.2.2、2019.2.3)
これに先立ち、2019年1月、トランプ大統領は小型核弾道の製造を開始したと明らかにしている。プーチン大統領は米国に対抗して、新たに極超音速中距離ミサイルの開発を進める意向を示している。

20世紀の後半、米ソ核超大国の核軍縮を求める声は世界中に湧き起こった。1982年第2回国連軍縮特別総会(SSD2)に向けて、日本でも5月には東京で40万人集会が行われ、国連に提出する反核署名は8200万筆に上った。私も個別訪問などをして署名活動を行なったことを記憶している。
1983年には、英国やフランスに中距離核ミサイル(トマホーク、パーシングⅡ)配備計画に対して、欧州に反核運動がおこり「人間の鎖」に30万人が参加した。

1987年、ゴルバチョフ書記長とレーガン大統領が署名したINF全廃条約は、核軍縮の端緒と言うべき画期的な条約だった。これにより、米ソは射程距離500~1000kmのミサイルの本体1752発、1000~5500kmのミサイルを859発廃棄処分にし、核弾道4143個を取り外し保管することになった。

INF全廃条約は全核弾道の8%にすぎないという限界があったにせよ、1991年のSTARTⅠ、1993年のSTARTⅡ調印(ブッシュ・エリツィン)という成果を見せた。ICBMなど、戦略核兵器の削減でも米ソの合意が見られたのである。1989年11月のベルリンの壁崩壊、12月の冷戦終結宣言、翌年10月のドイツ統一、そして1991年のソ連崩壊とロシア連邦の成立と、次々と押し寄せる政治の大きな変動は私たちに平和の時代の到来を予感させ安堵した。
「核戦争の危機はひとまず遠のいたな。」

しかるに、トランプは核軍縮に対する世界の歴史的営為をまるでドブに捨てるように、条約を破棄してしまった。「ロシアが条約を守っていない」として条約破棄を表明したのは昨年の10月、そして2019年2月までの4ヶ月間に行なわれた米ソの協議はたった1回。まるで最初から結論が決まっていたような短絡的で乱暴な外交である。これは2018年5月にトランプが「イラン核合意」から一方的に離脱したのと同じ行為である。トランプの脳裡には、南シナ海の軍事拠点化を強行し、中距離ミサイルを大量に保有している中国に対する危機感があると言われている。

このトランプの愚行により、核軍拡は歯止めがなくなった。アメリカは「核抑止力=力による平和」という米ソ冷戦時代の残りカスを掻き集め、対立と恐怖と暴力がむき出しになった時代を再現しようとしている。
最後に確認しておく。小型核を使った「限定核戦争」などありえない。ひとたび核が使用されるならば、人々の恐怖は連鎖反応を起こし、全面的核戦争へと発展するだろう。

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